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» 2020年08月03日 11時41分 公開

この頃、セキュリティ界隈で:マスクのせいで顔認識できない実態、NISTのテストで判明 精度向上には懸念も

マスク着用必須の時代、顔認識をセキュリティ用途で用いることについては議論が起きている。

[鈴木聖子,ITmedia]

 iPhoneに搭載された顔認証機能は、使い慣れればとても便利だと思っていた。外出時のマスク着用が必須になるまでは。iOSのアップデートでロック解除が少しだけ楽になったとはいえ、いちいちパスコードを入力しなければならないのは、やはりうっとうしい。

photo 最新のiOSは、ロック解除が少し楽になるだけ

 マスク着用でこうした顔認識技術がどれくらい使えなくなるかというテスト結果を、米国立標準技術研究所(NIST)が発表した。外出時にマスクを着けなければならない状況がいつまで続くのか分からず、もしかすると新常態になるかもしれないとさえ思える中で、顔認識をめぐる論議は続いている。

 NISTのテストは、各国の企業や大学などからベンチマークテスト(FRVT)用に提出された顔認識アルゴリズム89種類を対象に実施した。同一人物の写真をデジタル加工してマスクを着けた顔と着けない顔を照合させた結果、正しく認識できない確率は5%〜50%に上った。

photo NISTが実施した顔認識のレポート

 結果はアルゴリズムによって大きな差があった。最も精度の高いアルゴリズムの場合、マスクを着けない写真で認識に失敗する確率は0.3%程度だったが、マスクを着けると失敗する確率は約5%に増えた。それ以外は、有力なアルゴリズムでも20〜50%の確率でマスクをした顔を認識できなかったという。

 マスクの形状や色で比較すると、円形のマスクの方が認識できる確率は高く、黒いマスクは薄青色のサージカルマスクに比べてアルゴリズムの性能が低下する傾向があった。

 顔認識は一般的に、例えば目と目の距離やあごの形状といった顔の特徴を識別することで機能する。しかしマスクを着けると顔の最大70%が覆われてしまい、特徴が識別できなくなって、顔認識技術が通用しなくなるとNISTは説明する。

 ただし今回の実験対象としたアルゴリズムは、2019年から2020年初めにかけてNISTに提出されたもので、マスク着用は想定していなかった。

 メーカー各社は既に現状に対応して、「マスク対応」の顔認識システム開発を進めているという。NISTは各社に対し、そうしたマスク対応のアルゴリズム提出を促しており、次はマスクを着けた顔を認識できるアルゴリズムについて検証を予定している。

 しかし欧米では顔認識技術をめぐり、市民監視の不安やプライバシー問題、人種差別との絡みで批判の声も根強い。黒人やアジア人の場合、白人に比べると誤検知が多いという調査結果もあり、警察など法執行機関による乱用も懸念される。

 Reutersの調査報道によると、米国でドラッグストアチェーンを展開するRite Aidは、非白人で低所得者層の住民が多い地域の店舗で、犯罪防止を目的に顔認識カメラを導入していた。取材を受けて、Rite Aidは顔認識ソフトの使用を中止したという。

 ミシガン州デトロイトでは1月、黒人男性が誤った顔認識のために誤認逮捕される事件が発生した。ボストンやサンフランシスコなど、警察や自治体による顔認識技術の使用禁止や制限に踏み切る自治体も増えている。

 人種差別に対する抗議の声が高まる中で、IBMは6月に、人種差別を助長するという理由で顔認識ソフトの開発中止を表明した。MicrosoftやAmazonも相次いで、警察などの法執行機関に対する顔認識技術の提供を見合わせている。

 一方、街角の防犯カメラから地下鉄、小売店に至るまで、社会の至る所に顔認識システムが浸透しているという中国。民主化要求デモが激化した香港では、デモ参加者のマスク着用が禁止されたが、英メディアのThe Registerによると、NISTのマスク顔認証テストで最も精度が高かったのは、中国の新興企業DeepGlintのアルゴリズムだった。

 顔認識の精度が向上すれば、マスクをしていようがいまいが、利便性が損なわれることはなくなり、そして監視の目を逃れることもできなくなるということか。iPhoneがマスク顔を認識できない(しない?)のなら、それでいいのかもしれないとも思えてきた。

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